歯科医療と全身疾患そして医療費との関係:コラム/ますち歯科診療室 MASUCHI DENTAL CLINIC
歯科医療と全身疾患そして医療費との関係
平成29年 北海道歯科医師会からの提言を一部改編追記
口腔ケアで高齢者の肺炎予防!
厚生労働省の統計によると、日本人の死因の1位はがん、2位が心疾患、そして3位が肺炎。注目すべきは、肺炎では高齢者ほど死亡率が上がり、死亡者の96%が65歳以上。また、高齢者の肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎だと言われている。
この予防として注目されているのが口腔ケア。グラフで示した通り、口腔ケア群は対照群に比べて口腔と咽頭の細菌数が減少し、誤嚥性肺炎の予防と発熱リスクの減少が報告されている。
日常的口腔ケアと専門的口腔ケアの徹底は、口腔内の病原菌を減らすだけでなく、口腔への刺激により嚥下機能が回復して、食事が進むようになり、栄養状態が改善する。ひいては免疫力が向上して肺炎の予防につながるというのが定説になっている。
特に要介護者が肺炎になると検査や投薬、入院日数が増えるため、1人当たりの医療費が100万円以上かさむと言われている。
口腔ケアは、肺炎患者を減らすことで医療費の節減にもつながっている。
健口な人ほど認知症発症が少ない!
グラフでは、歯の数そして義歯と認知症との関係では、歯が20本以上ある人にくらべて、歯がほとんどなく義歯を使用していない人は、1.9倍認知症になりやすく、逆に歯がほとんどなくても義歯を使用して噛めるようにすれば認知症は4割抑制されるという結果が出ている。
また次のグラフからは、なんでも噛める人に比べて、あまり噛めない人は、認知症のリスクが1.5倍高くなることが分かる。
歯周病と全身の関係!!
歯を失う原因の第一位を占める「歯周病」は、成人の約8割(軽度を含めると)が罹患しており、全身の病気とも関係があると言われている。その炎症が直接脳に悪影響を及ぼすとともに、しっかり噛むことが難しくなり、脳への刺激が少なくなって、脳が委縮して認知症の発症リスクが上がるといわれている。また認知症の方の海馬より歯周病細菌の検出の報告もある。
歯周病は歯の喪失をもたらすだけでなく、歯周病菌や炎症性物質が血液を介して体内に入り込み、全身の健康に悪影響を及ぼす。
上の図では歯周病がいろいろな病気に関係しているのが示されている。
特に、歯周病と糖尿病はお互いに矢印が向いている。糖尿病にかかると歯周病になりやすく、一方、歯周病は糖尿病を悪化させるため悪循環に陥ってしまう、と言われている。歯周病の治療をすると糖尿病の症状が改善することがあるため、糖尿病重症化プログラムの中で現在注目されている。
また、動脈硬化の場合で、Pg菌という歯周病菌の親玉が血管内に付着して、コレステロールを集め、動脈硬化を引き起こす。これが下の図にあるアテローム性動脈硬化症と言われている。さらに、別の歯周病菌であるAa菌は動脈硬化した血管を傷つけて、血の塊(いわゆる血栓)を作る。これが心臓や脳の血管を詰まらせて、心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされる要因にもなる。
在院日数、入院医療費が減少する!
緑が口腔機能を管理した群、青が管理をしなかった群。口腔機能管理を実施することによって、在院日数がいずれの診療科においてもほぼ10%以上減少していることが分かる。そして、それは入院医療費の減少につながる。
これは手術前から手術後まで、口腔内を清潔に保つことによって、口腔内細菌からの感染が抑えられているためであると考えられている。
残存歯数が多いほど、医療費は抑えられる!
「残っている歯の数が多いほど、医療費は抑えられる」というグラフ。
40歳以上を対象にした口の健康と医療費に関する調査によると、歯の本数が20本以上ある人は、5本未満の人に比べて、年間医療費が約19万円少ないという結果が分かった。
また、下のグラフは、歯科健診を長期間持続すると、歯の寿命が延びるというもの。ライオンの研究によると、長期受診した方は23本、しなかった方は7本、という結果が出ている。
歯の健康を保つことで、体も健康になり、医療費を少なくすることにつながるのである。
歯科健診は医療費を抑制する!!
「歯科健診は医療費を抑制する」ことを示したグラフ。
定期的な歯科健診を受けている人ほど、受けていない人に比べて年間医療費が少なくなることを示している。
このように、口の健康と全身の健康は密接に関係している。
歯科医療によって様々な持病のリスクを抑制できることが明らかになってきており、口の中の病気の予防は、他の病気に比べて予防しやすいため、歯科医院の定期的な受診や健診、そして正しい歯ブラシの仕方など、口の中の管理方法(いわゆる口腔ケア)を学ぶことで、失う歯の数を減らすことができ、また多くの疾患を予防できる可能性があるといえる。
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